ベーシックインカム(以下、BI)の導入によって日本社会がいま抱えている問題はどれほど解決されたり改善が見込めたりするのか。
ざっとまとめてみました。
BIで解消や改善が見込める諸問題まとめ
ブラック企業問題
ブラック企業が劇的に減ることが見込まれています。
最低限の生活費が保障されていれば、罵倒されたり過労状態にありながらも会社にしがみついて働き続ける必要はありません。
またBI支給額では生活費として足りなかったとしても、従来に比べたら貯金がしやすくなり、「思い切って辞めてから転職活動」という選択肢も取りやすくなります。
また企業側も人材を“人財”と捉える向きが多くなることが予想されるので、労働環境の改善も見込まれます。
自殺者問題
自殺者数を大きく減らせるであろうことが期待できます。
結局のところ、成人の自殺理由の大半は経済的な問題です。もちろん全てとはいかないけれども、かなりの人数を減らせることが見込めます。
消費の低迷
消費の低迷したデフレ状態をかなり改善できると予想されます。
単純に手元のお金が増えることによる消費の拡大が期待できますが、実際のところはその直接的な効果以上に「将来への不安が減る(払拭される)」ことによる消費の拡大効果が大きく現れるものと考えられます。
参考 「個人消費の低迷の背景にある生活者意識の変遷」 (2017年4月13日 No.3312) | 週刊 経団連タイムス
参考 消費低迷の最大理由は「将来への不安」 100社調査:朝日新聞デジタル
今は20代、下手したら10代から「老後が不安」と言う時代です。「長生きしてしまうのが怖い」という時代です。その不安感が消費の低迷・貯蓄率の高さにモロに現れています。この漠然とした不安が払拭されるだけで、日本の景気は今とは全然違った雰囲気になるでしょう。
雇用・労働市場の硬直化
雇用の流動化、労働市場の流動性が著しく改善されることが見込まれています。
労働市場が硬直すると何が問題かは、下記リンク先を参照▼
参考 解雇規制による硬直的な労働市場こそ、日本経済が浮上できない最大の原因である – モジログ
ブラック企業問題の改善と通じるところですが、企業は人財を確保するためにより良い労働環境を用意していく必要に迫られるでしょう。
新産業が創出されない、起業者数が増えない問題
新産業の創出や起業者数の増加が見込まれています。
「今までになかった新しい事業」が次々に生まれる社会には勢いがあり、それが多ければこそその中の一部が世界を席巻するものに成長していきます。
現状の閉塞感のある社会では新産業や新規事業者が生まれにくく、そのことが日本の競争力やプレゼンスの低下につながっています。クリエイティブで挑戦的な新規事業が次々に生まれる社会になることは、物が十分に溢れた現代において非常に重要なことです。
企業が従業員を解雇できない問題
企業が雇用調整しやすくなります。
なかには(解雇されたりなどして)被害者感情を持つ人も出てくるかもしれないけれど、広く社会全体で見たらそれぞれの企業がよりベストな経営判断をできるようになることは良いことです。(次の「非正規雇用問題」でも同じですが、これからは徐々に「正社員」という概念そのものが古い考え方になっていくものと考えられます)
リンク 「正社員」という言葉がなくなる日|採用、育成・研修、労務・人事に関する情報ならHRプロ
非正規雇用問題
非正規雇用問題の大部分は無くなります。
これも結局のところお金の問題であり、最低限の生活が保障されるようになれば“問題”の姿が今とは変わってきます。
BI導入後は、今で言う派遣・契約社員であったり、それからクラウドワーカーや個人事業主など、働き方が多様化し、一律の“正社員”という形態に縛られない働き方を選択する人が増えていきます。
端的に言えば、“人として”自社に抱え込んでおきたいごくごく少数の人は正社員として雇用し、それ以外の大多数の社員は何らかの別形態の雇用契約になるのかもしれません。
東京一極集中
東京や首都圏に人口が一極集中している問題が改善されると考えられます。
リンク 「東京一極集中」がさらに加速、いよいよ「危険水域」に到達か |ビジネス+IT
BIの給付は、物価の安い地方へ移住する動機づけになります。田舎で暮らしたい、海沿いの古びた街で暮らしたい、という人を現実的に後押しする力になるため、東京一極集中が改善され地方の活性化が見込まれます。
待機児童問題
待機児童問題が無くなります。
よく、少子化なのに待機児童ってどういうこと? という疑問がありますが、それは若者世代が東京一極集中しているからに他なりません。地方では園児を集められなくて閉園に見舞われていたりするのが現状です。
一極集中の問題が改善されれば、自然と待機児童問題は解消されます。「BIがあるから専業主婦でもいいや」という人も増えるかもしれません。
少子化問題、婚姻率の低下
少子化問題は無くなり、結婚する人の割合も上昇します。
BI以上に有効な少子化対策はないでしょう。
生活保護の不正受給
生活保護の不正受給問題が無くなります。
生活保護という社会保障がBIに置き換わるので、これまでよりも公平・公正な制度になります。
社会保障の不公平さ
社会保障の不公平さが改善されます。
たとえば生活保護は、受けられるかどうかは窓口の担当職員次第のところがあります。ある人は月30万円近い生活保護を受給して悠々自適に暮らしていて、ある人は本当に生活保護が必要なのに受けられなくて餓死するなんてことも起きています。
行政の裁量や職員個人の感情に左右されない点はBIのシステムの優れた点です。
リンク 公的年金の世代間公平性を考える | NIRA政策レビュー 伊藤元重 編集 2013.1
社会保障制度による“負の動機づけ”問題
現行制度下で生じている負の動機づけが解消され、勤労意欲が向上します。
現行制度下では、年金や生活保護や雇用調整助成金がもらえなくなることを嫌がってあえて働かないでいる人たちがいます。BI導入後はこういった“負の動機づけ”がなくなるので、勤労意欲の向上につながります。
ちなみにBIを導入しない場合は今後も貧困対策だの少子化対策だの子育て支援だの教育支援だのでますます制度は複雑化していくばかりです。するとこの“負の動機づけ”もますます多方面に渡って大きくなっていくばかりです。
犯罪率
犯罪率の低下が見込まれます。
大半の殺人事件は親族やその他親しい人との間で起きるものです。経済的理由で離れたくても離れられない人との間で起きているのが現実です。BIにより成人すれば誰もが最低限の生活を保障されるとなれば、それらの痛ましい事件の多くは未然に防げます。
また犯罪者は出所後の生活の立て直しがしやすくなるため、再犯率の低下も見込まれます。
低所得者の多重債務問題
低所得者の多重債務問題が改善される可能性があります。
雇用が流動化することにより、消費者金融の信販審査が慎重になり、低所得者の借り入れが従来に比べて簡単でなくなることが予想されます。そのため多重債務問題が激減するのではないかと考えられています。
「103万円の壁」問題
配偶者控除という制度がなくなることにより、いわゆる「103万円の壁」「130万円の壁」と言われるものがなくなります。
このこと自体が大多数にとって喜ばしいことかどうかは実際は微妙なところですが、ただ、先進諸国が陥りがちな複雑化しすぎる税制がシンプルで分かりやすいものになることは良いことです。
現行制度では「もっと働けるのに、働かないように調整する」という負の動機づけがありますが、これがなくなります。
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